「自分を否定する」呪縛をとく
前回のポストでは、自分が人生の必殺技と思って使っていたマインドセットをシェアしたのだが、 コメントを拝見していると「強者の理論」というコメントを沢山いただいた。
これは私の書き方の配慮が足りなかったのだと思う。私は昔は完璧主義なのに、運動も勉強もなにをやってもできないのび太君みたいな感じだったので自尊心は皆無だった。だから、自分が失敗するたびに心もつらく、自分はなんてクズのような人間なのだと考えていた。
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自分はADHDで、ダメ過ぎたので、前に進むしかなかったが、とんでもなく出来ない自分に、正直なところ、運を恨んで、世間を恨んで、悲観主義でそして、自分に常にダメ出しをして価値の無い人間と考えていた。そして実際何をやってもうまくいかなかった。
しかし、そんな自分を救ってくれた出来事があって、今は精神はとても安定している。そして、現在は上記で紹介したようなマインドセットになっている。もし、自分と同じようなことで苦しんでいる人がいたら、きっとあの記事はたしかに「強者の理論」としか思えないだろう。
だから、そんな人はいるのかわからないがその人のために、どうやってそんな苦しい状況から抜けたしたのかというエピソードを公開したいと思う。それはあなたのせいではないし、誰でもなる可能性はあるし、そうなるのはどうしようもないことだ。
「なんてお前はダメなんだ」と自分に常に語り掛けていた
私が昔、何か自分がうまくいかなくて、失敗するといつも心の中で「なんてお前はダメなんだ」と自分に叱咤していた。本当は出来るようになりたいのに、現実は全くできないどころかどんなに努力しても普通の人並みにもなれない。自分の人生が早く終了したら楽なのにと本気で思っていた。自分の親父は上記のポストでも書いたが、自殺したが、直接の死因と言えるのは躁うつ病だった。
躁の時は、「俺は偉い」と母を相手にがなり立てたり、夜中に大音量でバイクをふかして団地暮らしの家に帰って来たりするから、めっちゃ恥ずかしかった。鬱の時は一転布団から出てこない。自分はそういう親から生まれたのだから、自分の遺伝子にも入ってるから、絶対に自分は結婚できないな、しちゃいけないなと思っていた。今から思うと父は繊細な人だったのだと思う。
ワインバーグのスーパーエンジニアへの道
しかし、その日々は終わりを告げる。全く意外な方向から。ワインバーグさんは、ソフトウェアの世界で有名で、数々の名著を書いている。私はコンサルタントの道具箱という書籍を最初に読んで衝撃を受けた。彼はロジックの塊のようなコンピュータの世界に初めて「人の心」を持ち込んだような人物である。
例えば、こんなエピソードがある。エレベータがあっていつも混雑していて、制御がうまくいってなかった。そんな時にクライアントはコンピュータの専門家たる彼にその解決を依頼した。彼はどうしたかというと、エレベータの前に鏡を設置したのだ。それによって、人々が鏡で自分の身なりが気になるので、エレベータが遅いということが気にならなくなった。。。というのに代表されるように、技術よりも、人の心をも巻き込んだソリューションの数々は目からうろこで私も大変影響を受けた。
「その日」は突然やってきた。最初の本に感銘を受けた私は、次のワインバーグさんの書籍を探していた。コンサルタントの秘密もとんでもない名著で次への期待が膨らんだ自分が選んだのは次の「スーパーエンジニアの道」だった。
その書籍には技術者として「自尊心を高める」のがいかに大切かかかれていた。「そんなん言っても、俺は自分のこと世界で一番クソな人間やと思ってるねんけどな…」と正直思いながら読んでいたらなんとそこには「自尊心を高めるメソッド」が載っていた。それは「サバイバルルール変換」と呼ばれるものだ。必要なものは紙と鉛筆だけ。私はそれに従って、サバイバルルール変換のワークをやった。本代しか使ってないが、30分後自分は「ああ、俺もまわりの人程度には価値があるな」と人生で初めて思うことができた。たった30分で、自分の30年以上間、最低だった自尊心が高いとは言えないが0にまで復帰した瞬間だった。自分には天地がひっくり返ったような衝撃で、その後いろんなことがつらくもなんともなくなって、どんな失敗をしてもたいしたことに思えなくなった。なにより、心がつらくなくなった。
サバイバルルール変換を体験する
サバイバルルールとは、自分が過去に生きてきた過程で各自が持っているルールや思い込みだ。特に自分の強い感情と結びついているものがある。これを自分でちがったものに「変換」してしまうことができる。自分の地の底まで落ちた自尊心をレベル0に回復させるのは本当にいろいろな効果があった。「スーパーエンジニアの道」に記載されているステップの通り実践してみよう。
第一段階 規則を明確かつ具体的に述べる
例えば、私の場合「私は仕事が出来なければ価値がない」というサバイバルルールを持っている。強い感情を持っていた。それを感じるときにはいつも心がつらかった。自分の心がつらくなるサバイバルルールをピックアップして明記する。それを探すためには、「何に自分がつらく思っているか」、何を「しなければならない」と思っているか?を考えてみると見つけやすい。見つけたルールを紙に書き出してみよう。
第二段階 その規則のサバイバル上の価値を承認し、自分の無意識と取引する
このステップはすこし理解しずらいだろう。どういう事かというと、上記のような強い感情をもったサバイバルルールは幼少の頃のトラウマと関連していることがほとんどだ。だから、セラピーの世界では催眠誘導などを行いながら、その「根本原因」が何であるかを調査をしたうえで、こういった心理療法を行う。何故かというと、これらのサバイバルルールは自分に有効だったからそれが形成されたのだ。上記のものの場合、例えば「自分は人として価値がない」と思い込むことによって、幼少の頃に、自分が全然できないのに、もっとがんばって、失敗して自分が傷つく状況を回避してくれていたのかもしれない。でもそれは、セラピストなどの専門家の分析が必要だ。そうでないと、勝手にサバイバルルールを書き換えようとすると、自分の無意識が反発してしまうのだ。 だから、次のようなことを自分の無意識に暗示としていれるために、ワインバーグの次の文章をかみしめながら書くとよいだろう。
この規則は、私が生き残ってくるのに有用だった。だからそれを追い払おうとは思わない。手元に置いておいて、適切な状況に出会ったら使おう。私は新しい規則をつけくわえるかもしれないが、古い規則も使いたくなったら使えるように取っておく
第三段階 自分に選択の余地を与える
「私は仕事が出来なければ価値がない」というのは、選択の余地がない。だから、選択の余地を与えて文を書き換えてみよう。「~なければならない」を「してもよい」に変えよう。かみしめながら紙に書いてみよう。
「私は仕事が出来なければ価値がなくても良い」
第四段階 確実性から可能性への変換をする
上記の文は暗黙のうちに、「常に」という意味がはいっている。だからそれをちょっと緩めて、いつもじゃなくそう。次のことをかみしめながら紙に書こう」
「私は時には、その気になれば、仕事をしてもよいし、価値がなくても良い」
第五段階 規則の中の全体性を非全体性に変える
価値がないというのは全体性を表しているのでそれを非全体に変えてみよう。こころに刻みながら文を書こう
「私は時には、その気になれば、仕事をしてもよいし、価値があっても無くても良い」
かなり気持ち的にふわふわしてきたことだろう。
第六段階 一般を個別に変える
まだ文は、固定的な一つの状態について述べているので、3つぐらいの条件を付けてみよう。
「私は、 自分の心が穏やかな時や、 自分がつかれていない時や、 自分がそうしようと思うときに、 自分は時には、その気になれば、仕事をしても良いし、楽しんでよい。やってもやらなくても 他の人とちょど同じ程度に価値があっても良い」
これを読んでいるだけだと、本当に?と思うが、この段階まで来ると、あれ、なんで俺自分に価値がないって思ってたんだろ?ぐらいの気分になってしまった。
え?こんなことでと思うかもしれないが、ワインバーグが書いているように本当にめっちゃ効いた。これはあくまで私の例なので、人によって心に来る思い込みは違うから、是非「スーパーエンジニアへの道」を読んで、紙とペンを用意して実践してみてほしい。私も今回久々に現在の自分がもっているサバイバルルールを見つけてやってみた。自分はなんでもないと思っていたが、心に来ていたことに気が付いた。これ以外にもいろいろなサバイバルルール変換を行って、気持ちに余裕が出来て自分をより客観視できるようになった。
なぜそんなことが実現したのか?
どうやら、ワインバーグはヴァージニア・サティアという心理療法家から心理を学んだようだ。上記のメソッドも彼女から学んだようだが、NLP(神経言語プログラミング)という手法があるらしいというのがわかった。自分も衝撃を受けたので、その手の本を沢山読んで学んだ。私はもちろん専門家ではないので、それや、私の知識が正しい知識かわからないが、人がそういう反応をしてしまうには次のステップがあるようだ。
- 子供の頃に何らかのトラウマが発生する。これは、親が虐待してたとか限らず、ものすごく小さなきっかけによって発生するケースもあるため、親が悪いとはいいがたい
- そのトラウマに関するイベントが発生すると、トリガーが引かれる。そのトリガーによって幼少期にトラウマになった時の感情が再生され非常につらい気持ちになる
- 本人はそのトラウマについてすっかり忘れているし、思い出せないことも多い
これは、だから本人のせいでもないし、親のせいでもない、性格ではない。たまたま偶然当時の小さな本人の心が何らかの(時には大人からみたらほんの些細な事)によって、トラウマになって、トリガーが植え付けられて、それがいろんなきっかけで発火して、そうなったら、本人にはそれは止められない。つらくなって何もできなくなってしまう。周りの人からたら「難しい人」と言われるようになってしまう。
つらさの大小はあれ、こういう仕組みなので、本人はどうしようもない。努力とか、根性とか、理屈でどうしようもない問題なので。だから決して本人のせいではない。 じゃあ、どうやったらその状況を取り除けるのかというと、「トリガー」を除いてあげればよいのだ。過去のことを思い出しても「感情」の方が再生されなければよい。
それを書き換える手法が「神経言語プログラミング」と呼ばれるテクニックだ。上記のサバイバルルール変換もそういった手法の一つと思ってもらっていいだろう。これらの手法には、サバイバルルール変換みたいに自分でやれるものがある。他には効き目は個人差があるが、EFTというツボをつかって暗示を入れる方法もある。NLPの手法の場合は、専門家の助けが必要なテクニックも存在する。サバイバルルール変換を見ていただいてわかるとおり、そんな恐ろしい何かではなくきわめて単純なんだけど、本当に強力でびっくりしてしまう。
その後も、そういった方法を学んで、自分の心が反発することなく、すべての人には価値があると考えられるようになり、自分を客観視できるようになった。でも、これは自分の実力や努力ですらなく、たまたまそのことにワインバーグ先生の本で出合ったからに過ぎない。ちなみにワインバーグ氏は、この方法を自己肯定感を上げて技術リーダが実力を発揮するためのツールとして使っているようである。
あなたのせいではない。誰でもそうなる可能性がある。しかし、方法はある。
この話はセンシティブな話であり、私は専門家でないし、今だとUpToDateなものでもっとより良いものがあるのかもしれない。正直シェアするのも怖い。でも、これが私を長年の低い自尊心と自分を責めて苦しめるトリガーから解放してくれたのも事実だ。そして、学んだ知識を利用して、さらにセラピストの先生に習って、心理学をもっと勉強した時期もあり、それは、精神的安定だけじゃなくて、いろんなことにも役立っている。特に営業や、教育の方面で特に役に立った。
私の親戚にも、私よりもっと強いトラウマを持った人が何人かいたが、私がそのセラピストを紹介したら全員社会復帰して、今は皆元気そうだ。今は本も出している立場なので、専門家でもない私が安易にその先生を紹介するのとかは避けようと思うが、一つだけ言えることは、こういったことは、決してあなたのせいじゃないし、親のせいでもない。そして、ソリューションが世の中には存在するという希望をこのポストで伝えたかった。
だって、たった一冊の本が自分の人生を救ってくれたから。ありがとうワインバーグさん。そのことを書いてくれて!
最後にワインバーグさんのカンファレンスをみんなでやった時のポストをシェアします。
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この話は載っていませんが、世界一流のエンジニアがどんな思考法をしているか、そして、どんな組織で働き方をしているか?という本を書きましたので興味があればぜひご覧ください。おかげ様で非常によく読んでいただいています。エンジニアだけではなく、ビジネス書なので、どなたにも生産性向上の参考になるように書いています。
ついに書影公開で10/23日発売予定です。私がマイクロソフトに来てからの気づきと学んだことを全部ぶち込んだ感じですわ。ちなみにKindle とかたぶん Audible も来るらしい。良かったら読んでな!https://t.co/QLX5oJtkJQ
— 牛尾剛『世界一流エンジニアの思考法』(文藝春秋)🎸Tsuyoshi Ushio (@sandayuu) September 28, 2023