「自分で人生を決めない」ことが、決定的に業界の進化を遅らせているのかもしれない
先日ブログを書いたら大いに炎上した。いろんな方がいろんなブログを書かれていたようだ。しかし、私は一切読んでいない。なぜならそこに関心がないからだ。ウォータフォール vs アジャイルの比較は私の関心ではなく、私の関心は「どうやったらソフトウェアに関する新しい考えや技術が、日本でも早く導入されるようになるか」だからだ。人生は短い。自分の時間配分は自分で決めているので
申し訳ないが、今後も読まないだろう。自分の人生は自分で決めるのだから。
simplearchitect.hatenablog.com
実は、この炎上の過程でいろんな仮説を考えることができた。なぜ、日本のソフトウェア産業は、海外に大きく後れを取ってしまっているのか?どうすれば、進化する手助けができるのだろうか?
自分の現在の仮説はマインドセット、つまり「考え方」が根本的な原因ではないか?という気がしてきた。
私が最近研究しているのは、 DevOps や Agile といった新しい考え方が日本になじまないのはそれらの考え方が、USやグローバルスタンダードの考えの上に成り立っているからという仮説だ。だから 日本文化にそのままインストールしようとするとなじまないということになる。
そういった「西洋文化の考え」を必要な部分だけインストールすれば、もしかすると、DevOps やAgileなどがもっと効率よくインストールできるのでは?という仮説だ。
simplearchitect.hatenablog.com
実際にいくつかのプロジェクトで試行しているが、今のところ上手くいっている。私もそのアクティビティの中では気づいていなかったのだが、最も根本的に変えたほうがよさそうなマインドセットを今回発見できた。
海外のメンバーと働いていて、根本的に大きく異なる点は彼らは「自分の人生や幸せに責任を持っていて、自分でコントロールしている」ところだ。それをベースとして、人を「大人として扱う」ということがある。
ここは非常に大きな相違で、このマインドセットが大幅に日本の進化を妨げているのでは?という仮説に至った。
新しい考え方や技術の導入で必ず言われること
今回の炎上もそうだが、新しい技術の導入でよく言われるのは例えば次のようなものだ
- 契約や商習慣の問題があり、導入できない
- 会社のルールで定められているので弊社では無理
- 要員のスキルレベルが対応できないからうちでは無理
- 日本の雇用に関する法律で決まっているから無理
- 経営層や上司がわかってくれないから無理
ほかにちらっとTwitterで見かけた意見これは私のブログに対してだが
- 不安を煽るのではなく、もうちょっと具体的にわかりやすくメリットデメリットを説明してほしかった...
などなど。これらの理由はすべて、これを言っていっている人以外に対して語っており、自分はどうだという話になっていないのだ。
本当にあなたがそれがやりたければ、自分でそれを変えたり、工夫したりしてやればいいのだ。それを、やりたくなければやらなければいいのだ。これらの考え方は、自分以外のものに、自分の人生をコントロールされているという考え方なのだ。 なぜ、それを「他の人」に求めるのだろう? 自分が、「具体的にわかりやすくメリットを説明してほしかった」と思うのであれば、自分で調べて、具体的にわかりやすくメリットデメリットを説明するブログを書けばいいんじゃないだろうか?
海外の人の目から見た日本人の考え方の課題
日本とグローバルの文化を研究しているロッシェル・カップさんという方がいる。彼女は、日本でも長年働き、米国人で、シリコンバレーでもお仕事している。だから日本の文化、グローバルの文化を知り尽くしていて、日本企業に対して、グローバルマインドセットを教えたり、海外のみなさんに日本の企業と付き合う時の考え方を伝えたりしている。彼女は、日本語、英語の両方でたくさんの書籍を執筆されている。彼女の本を読むと衝撃的だった。日本人の私が読んでも日本語で書かれた彼女の本の分析は完璧で衝撃を受けた。その彼女の本の一つに次の本がある
この本では、彼女は、グローバルに働く人向けに、日本人のいいところ、直したほうがいいことを書いている。彼女は、グローバルで働く人向けにこの本を書いているが、グローバルで働くという観点じゃなくても、日本企業が生産性を上げるという面で考えても同じだ思う項目はとても多い。その課題について述べている一節をご紹介しよう。ほかのパートも面白いので是非手に取っていただきたい。
疑問をもっていてもお役所で決まったことなら黙ってしたがう、誰かに言われたからある行動をする、新聞でかいてあるから真実に決まっていると信じ込む発想、また海外で話題になったという理由だけで日本でも話題になる - 「お上と外圧に弱い日本」と「外国人に弱い日本人」と言われる側面にはこうした考え方が表れていないでしょうか? : 中略 社会的な慣習 : 中略 公に決まったことならいやでも黙って従うしかないという発想・・・「中身より形が大切」というのも日本の社会を表すのによく使われる言い方ですが、形イコール規制(ルール)になってしまっている実例を見ましょう
ここで彼女はこんな例を紹介していました。
たとえば、私が初めて東京のスイミングプールに行った時にびっくりしたのは、強制的にさせられた「準備体操」でした。そして全然疲れていないのに1時間ごとに5分間か10分間か休まなければならないということでした。また、スイミングキャップを着用しなければならないし、飛び込みはいけないし、泳ぐ方向にも決まりがあるし、楽しむために来たのに、まるで自由がないという気持ちでした。これらのルールは「安全のため」とされますが、大人なら全部自己判断で決められるはずだというのが欧米人的発想です。 日本人はそのような細かいことを命令されるのに何も感じないかもしれませんが、西洋人にとってこれは「余計なお世話」なのです。自分の体の管理のことまでどうして言われなければならないだろうと感じるでしょう。
そして、こう述べています。
脱出の方法
・「政府、医者、マスコミ、えらい人がそう言ったから正しい、だから従わなければならない」という考え方を捨てて、いろいろな事実などを確認しながら、自分で考えて、自分で決めて、自分で行動して、自分で責任を持つこと ・ ルールなどに対してフレキシブル(柔軟)に対応すること
人生は結局のところ、自分で決めている
自分の人生は、自分で決められないと思っている人は多いかもしれません。しかし、そういう人でも結局のところ自分で決めてしまっていると思います。
例えば、「会社のルールで決まっているから出来ない」という話であれば、会社のルールを変えるように動けばいいだけの話しですし、どうしてもいやなら、会社を辞めればいいです。それだったら家族が反対するという人がいるかもしれませんが、どうしてもやりたければ家族を説得すればいいでしょう。もし、これが政府の法律で決まっているということであれば、海外にいけばいいだけの話です。お金がないって?それに向けて今から貯金を始めたらどうでしょうか?
結局のところ、そういうめんどくさいことをするパワーがないので、「自分でやらないことを選択」しているだけなのです。
海外チームに不幸そうな人のいない理由
今の科学で無理なものだったとしてもその研究をしたらもしかするとできるかもしれません。自分がそう決めてるだけなのに、何か自分以外の力が働いていてどうしてもできないなんてポーズはダサすぎじゃないでしょうか?今すぐは無理だろうだって?じゃあ、10年でも20年でもかけてやればいいです。本当にやりたければ。
海外のチームで働いていて感じたのは、「不幸そうな人がいない」のです。みんな楽しそうで、人生をエンジョイしています。彼らは自分の人生に責任をもって、自分で考えて、どうやったら自分の人生が幸せになるかを必死に考えて選択し、行動しています。
自分の人生や幸せが自分のコントロール配下にないと思っている人は、自然と、自分が「不幸」になる選択を受け入れているからより不幸で面白くないことになると思うのです。人生に「我慢」など不要です。もし「我慢」を受け入れているとすれば、それはあなたのチョイスです。
幸せシフトをした話
私自身もこのことに昔から気づいていたわけではありません。確か30後半あたりでしょうか。ソニックガーデンの倉貫さんが私にいろいろな衝撃を与えてくれました。彼はみんなが、「アジャイルでどうやったら、請負契約が・・・云々」「部長が・・・」「商習慣が…」とか言ってる時に、彼は自分で会社を作って、自分の理想の環境をつくってしまいました。彼の思考回路は、本当に素晴らしくて、ストレートでそしてシンプルです。そして、それを実際に行動しています。彼から「自分で選択して実行すること」を学びました。
それと同時期に、私は会社を経営していましたが、周りの会社を経営して、お金をがっつり儲けている人はたくさんいたのですが、多くの人は全く幸せそうじゃなかったんです。お金をがっつり儲けているはずなのに。いつも忙しそうで、しんどそうです。 そんな時に友人のがく君がいました。彼は特にお金持ちというわけではありませんが、私が彼に「がくくんは幸せなん?」って聞いたら、「むっちゃ幸せですよ!」って満面の笑みで答えていてそれがとても衝撃でした。
私は何となく、お金儲けとか、成功とかそういう先に幸せがあるのかと思っていましたが、実際のところお金と幸せには相関はなかったのです。だから、それ以降は、私は「幸せシフト」と言って、お金ではなく、自分が幸せになる方向に常に人生の選択をするようにしました。自分で決めたポリシーは一つで
「自分がやりたくないことは一切やらないし、いやになったらいつでも辞めていい」
そう考えて行動するようになってからは自分がする選択は、常に自分が好きだからする選択になりました。だからうまくいかなくても一切後悔しなくなりました。例えば、あまり面白くない事務処理とかはこう考えています。「事務処理は好きじゃないからやらなくてもいい。でもやらないと会社を辞めないといけない。今面白い仕事をしている会社を辞めることと、事務処理をすることの天秤をかけると、事務処理やっとくか」と自分で選択しているという感じです。
自分の人生を自分で決めると後悔が無い
だから、自分が人生において、他人にやらされることは一切ないのです。もちろん、すぐにうまくいかないこと、失敗もありますが、そういうのがあっても、自分が「幸せ」だと思う方向性に常に舵を切る選択をつづけていくと、ちょっとずつそちらに近づきます。実際にマイクロソフトに入る前も就職失敗とかしましたけど、結果として今もとても幸せです。 たぶんマイクロソフトの今のポジションがなくなったとしても、私は幸せだと思います。幸せに対して選択していますし、幸せじゃなければ辞めるだけだからです。金や、地位やポジションの問題ではないのです。
たぶん、海外の同僚もきっとこんな考えなのではないでしょうか?だから、私は海外の同僚ともとてもよくなじみます。はなしもポジティブだし、面白いし、正直言うと日本に帰ってくると居心地悪く感じるぐらいです。
自分の人生をコントロールできるのは、自分だけで、自分が幸せになるのも自分の選択。そういう感じで、自分が「自立したもの」としてとらえていれば、他人が何を言ったかとかはどうでもいい話です。他人がわたしに「どうすべき」という話をしたところで、「何言ってんだこのハゲちゃびん。やりたいなら自分でやれよ」という感覚です。
上下関係と自分の人生
日本に帰ってくると不思議な感覚になるのは「上下関係」です。上司だから上で言うことを聞く、後輩だから下で面倒見ないといけない感は今となっては結構不思議な感覚です。人間は上下はそもそもないし、それぞれが独立した大人の人と考えると、新人も、会社にバリューをもたらす仲間です。だから私は常にフラットです。スキルの上下はもちろんありますが、それでも、自分なりのバリューを出すという契約を会社としている仲間であって、私は彼らの人生に責任を持てないし、彼らも自分の人生に責任を持ってくれません。でも、そういうものだとおもうのです。そういう人同士が、助けられることがあれば、助け合うけど、そうでなければ、自分で何とかするしかないのだから、その人次第なのです。
自分の人生を自分でコントロールしないマインドセットと生産性の問題
もちろん、これは私の体験談であり、皆さんが私のようにしなくていいと思うのですが、「自分で自分の人生や、幸せに責任をもって、自分でコントロールする」というマインドセットは生産性や、新しい技術や考え方の導入に大きく影響していると思います。
「会社で決まっているから」ということを深く考えずに制約事項にしてしまえば、いろんなものが歪んでしまいます。商習慣が違うので無理といえば、そこで、新技術の導入は終了でしょう。偉い人が「ダメ」と言ったからダメだとあきらめたら、一瞬で終わり。しかし、自分で考えて、自分でチョイスをする人が増えて行けば、その状況は変わります。
私も長年 Agile とか、 DevOps とか導入しています。相当ポジティブな人からも、「会社のルールで決まっているから難しいと思います」とか、「うちは品質重視だから無理だと思います」「あの部署の部長は絶対認めてくれないと思います」とか何度も聞いてきました。そんな時、私は必ずその人に会いに行くようにしています。
そうすると大抵のケースは、「そういう理由だったらこの承認いらないよ!効率化されていいね!」とか、「品質は重視していなくて、本当はデリバリのスピードが重要で、品質は二の次で大丈夫」と言われたり絶対無理と言われた部長が「一緒に協力して改善していきましょう」といってくれたり。
やる前から自主規制していることがほとんどだし、一回言われたダメと思い込んだりというケースがほとんどで、やりようによってはナンボでもでもやり方はあるのです。やらないとしたら、それはあなたのチョイスです。
自己組織チームと生産性
「自分で考えて意思決定する人」が増えてくると、生産性が強力にアップする方法を使えることになります。それは、「自己組織チーム」と言われるものです。チームに意思決定を任せて、彼らに考えてもらうマネジメントスタイルです。サーバントリーダーシップとも呼ばれており、最近ではこちらのほうが主流のリーダーシップの考え方です。それどころか、今はさらに先に進んだ「ホロクラシー」という考え方もあるようです。
従来の考えでは、部下にやり方を指示して、報告を受けて、その結果をもらって、承認してというスタイルです。一方サーバントリーダーシップではリーダーは、ビジョンを示して、具体的にどうするかは部下・もしくはチームが考えます。リーダーはその実行の時に部下やチームが困ったら助けて上げるというコーチングのようなスタイルです。
このスタイルは生産性的には相当強力なのです。細かく指示をしていたら、常にリーダーは忙しくなりますし、実行がリーダーの実力を超えることはありません。部下も上長の承認がなければ意思決定できなければいろいろな待ちや無駄が発生します。今はソフトウェア開発だけではなく、仕事が高度化しています。誰でも指示通りできる仕事は機械で自動化されます。だから、ツールのサポートも「考える人」の生産性を上げるようにシフトしています。「考える人」が最大の生産性を上げられるように。
自己組織チームの威力はまた別の機会にブログを書こうと思っています。
上下関係が生む導入の無駄
こういうマインドセットと、従来型のコマンドアンドコントロール型のマネジメントがまだまた主流の日本で、新技術や考え方の導入が遅れるのも納得がいきます。自己組織型チーム的な管理がされていない日本では、技術や、メソドロジーの選択の権限を持っているのは、実際にそれを使う現場の技術者ではなく、上位マネジメントの方になります。上位マネジメントの方は、普段コードにふれていませんので、妥当な選択ができるはずが ありません。商売がうまいベンダーは、本当に現場で使いやすく、生産性があがるものではなく、上位マネジメントにとって都合がいいツールを作るようになるでしょう。本当に現場でつかえるツールは、現場で運用している人だったり、現場で毎日コードを書いている人がわかることです。
ツールや方法の選定は、単純な比較や、お金ではない「手触り感、嗅覚」みたいなもんが本当に重要です。
このことはインターナショナルポジションでDevOpsエバンジェリストをしているとひしひしと感じます。例えば我々が、DevOps ハッカソンというハッカソンイベントを無料でやっているのは、DevOps のよい事例を作るために、そういったお客様とつながるためにやっています。
他の国ではこのイベントは効果絶大です。何故なら、そこにやってくるエンジニアが技術選定や、DevOpsの導入を決めるので、彼らが「いいな」と思うとすぐに「導入しよう」という話になるのです。そこに承認とか時間のかかるものはありません。 ところが、日本では、DevOps ハッカソンから事例につながったものは残念ながら今のところありません。日本ではエンジニアではなく、マネージャが決定権を持っているからです。
日本でも、「自己組織チーム」を運用してうまくいっている会社さんは本当にたくさんあります。私のかかわったアジャイル / DevOps プロジェクトはすべてそうですし、倉貫さんのソニックガーデンもそうですし、大手のKDDIさんの導入は完全に本質をついたものです。未来工業という会社さんだとずっと昔からずっとそうみたいです。だから、日本だとできないとかそういう話ではないのです。ただ、私もこの炎上で気づきましたが、こういうマインドセットがあれば、より、自己組織チームが強力に働くようになって、なおかつ、チームのメンバーも、マネージャさんも楽しく、成果があがる仕事ができるようになってくると思いました。
マインドセットを変える方向性
私はそういう背景があるので、日本の文化に合わせる方向性ではなく、マインドセットを変えて、より効果を高める選択をしました。みなさんのチョイスはみなさん次第で私がどうこういう話ではありません。ただ、別に厳しい話をしたいわけでも、全員の方にDevOpsをやっていただきたいわけではありません。
最後にこのエピソードを紹介して終わりたいと思います。
私が今回ブログが炎上したあとに、こういうコメントをしました。
牛尾: アジャイルやりたくないのならやりたくないといえばいいのにね。
私の友人はこう言いました。
友人: お前が言うか?
私はこう答えました。
牛尾: はい。「やりたくない」というのは立派な理由です。
今なら私がこう答えた意図がわかってもらえるかもしれません。私の人生は私のもの、皆さんの人生もみなさんのもの。誰も自分の人生を左右する権利などない。
ならば、自分で選択して、より幸せな方向性を目指しませんか!