メソッド屋のブログ

米マイクロソフト Software Development Engineer 牛尾の日記です。ソフトウェア開発の上手なやり方を追求するのがライフワーク。本ブログは、個人の意見であり、所属会社とは関係がありません。

アジャイルを創ったアリスターのひとこと

f:id:simplearchitect:20160911181258j:plain Fig1. アリスターとXPJUGの仲間 2002年

How I saved Agile and the rest of the world

アジャイル開発」そして「オブジェクト指向」などに多大な貢献をしたアリスターコバーンさんが、最近こんな記事を公開した。

Alistair.Cockburn.us | How I saved Agile and the Rest of the World

アジャイル」が広まりだした2000年当初、アリスターは、Kent Beckと共に日本に来てくれた。本でしか見たことがない、想像上の偉人のように感じていたアジャイル界の大物の来日は衝撃的だった。当時は外タレの来日は非常にまれだった。これはテクノロジックアートの長瀬さんそして、XP JUGのコミュニティの貢献が大きかったと思う。しかも、東京だけではなく、関西に来てくれたのだ。

 当時、アジャイルの世界は今のようにScrumが最も普及したものではなく、Extreme Programming という手法が全盛だった。ソフトウェアエンジニアリングの世界でも大上段で複雑なプロセスが主流で、エンジニアリングらしく、「誰がやっても同じ結果が出る」ということを目指したプロセスがほとんどだった。Extreme Programming は、プロセスより個々の「人」に注目した方法で、ペアプログラミングや、テスト駆動開発継続的インテグレーションなどマインドセット、技術の両面で世界に衝撃を与えた。私も大好きなExtreme Programming だが、常にどんな時でも使えるというものではなかった。

アリスターコバーンがくれたもの

 アリスターコバーンは、「クリスタル」シリーズと呼ばれる方法論を発表していた。彼の考え方は「すべてにあう一つの方法論は存在しない」という考えであり、クリスタルシリーズは、クリスタルオレンジ、クリスタルイエロー、クリスタルクリアーと様々なケースに合わせて考えられたものであり、私が最初に大変お世話になった「アジャイルプロジェクト管理」は非常に実践的で、大変参考になった一冊だった。

books.rakuten.co.jp

更に世の中のアジャイル本の中でも最もディープな内容を持ったものの一つが、「アジャイルソフトウェア開発」だ。人やプロジェクトは異なるという彼の考えの結果生まれた本書は、人やソフトウェアの開発に非常に深い知見を与えてくれる。

books.rakuten.co.jp

それ以外にも、ユースケースの書籍の中で、自分的に最も完成度が高く実践的な「ユースケース実践ガイド」も彼の書だ。この一冊でほかは読まなくていいぐらいの完成度とオリジナリティだ。

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アジャイル開発宣言

そんな多大な貢献をした彼は、「17人のライトウェイトな方法論」をそれぞれ作っていた人を集めて、「アジャイル開発宣言」をまとめ上げた。今回の記事はその経緯と、17人それぞれがどういう人なのかを紹介している。そして

What I hope you see is that the Agile Manifesto was the product of 17 people from different schools and backgrounds. No one person is responsible for the words we came up with – it is clear that it was the product of all 17 people. The addition or removal of any 1 person would have changed the outcome, something we recognized and discussed at the end of that meeting.

貼り付け元 http://alistair.cockburn.us/How+I+saved+Agile+and+the+rest+of+the+world

日本語訳例

私があなたにアジャイルマニフェストに対してどういう風に考えてほしいか?というと、アジャイルマニフェストは、17人の違った知見、バックグラウンドを持った人のプロダクトということだ。誰かが「アジャイルマニフェスト」という言葉を思いついて責任を持ってるとかではない。一つだけはっきりしているのは、17人全員のプロダクトであるということだ。もしたった一人の人が減ったり、増えたりしても、我々がそのミーティングで、認識してディスカッションした結果は違ったものになっていただろう。

アリスターのひとこと

彼が以前日本に来たがっていたときに、こんなことを言っていた。

I'm not famous enough in Japan. (私は日本ではそんなに有名じゃないから)

私はとてもびっくりした。彼よりアジャイルで有名で、業界に貢献した人は誰がいるのだろう?私は彼にこう答えた。

あなたは、アジャイルの父じゃないか?私は信じられないよ。

かれはこういった。「アジャイルは私のものではない。17人の人々によって生まれたものだ。17人の成果なんだよ。」と。そんなことをこの記事を読んで思い出した。

アジャイルの本当の理解のために

現在アジャイルというとScrumが有名で、Extreme Programming が次に来る。現在DevOps の世界が来ているが、Scrumで世界に受け入れられたアジャイルが、DevOpsの時代になり、Extreme Programmingのようにクラウドとともにテクニカルプラクティスが戻ってきた感を受ける。

しかし、私がアジャイル導入にかかわっていつも感じるのが「アジャイル開発の根本の考え方」みたいなものがあまり浸透していないことを感じる。アジャイルは、Scrumと、Extreme Programmingを指す言葉ではない。クリスタルシリーズ、FDD、DSDM等様々な手法があり、それぞれの手法からいろいろな学びを得ることができた。アリスターのいう通り、すべての状況にフィットするものなどないのだ。

でも、我々にはアリスターがいた。講演をしてくれて、日本に来て、一緒にたこ焼きを食べて、いろんなことを直接教えてくれた。そんな彼が日本に来たいのに来れない現状を何とかできないだろうか?

我々がアリスターに出来ること

私にできることはたぶんブログを書いたりすることぐらいかもしれない。しかし、彼は私がエンドースしたいという理由を除いても未だ素晴らしく魅力的なのだ。  最近の彼は、アドバンスドアジャイルマスタークラスを定期的に開催して非常に高い評価を得ている。そして、ICAgile というオープンで本質的な認定をリードしたり、ハートオブアジャイルというより「人」に踏み込んだカンファレンスを開催している。

www.tabar.com.au

Heart of Agile | Rediscovering the heart and spirit of agile

books.rakuten.co.jp

Alistair.Cockburn.us | Alistair Cockburn

 個人的にもアドバンスドアジャイルマスタークラスは最高に受けてみたい。アジャイルの「入門」を終えた皆さんも本物かつ現役でインパクトを出し続ける「アジャイルレジェンド」に日本にもう一度来てもらう機会を作りませんか?

彼が「日本では有名ではない」という状態はもったいなすぎるよね!

おまけ

最後に私も興味ありありの、Advanced Agile Master Class のコース概要に関して日本語訳をつけておこう。前からこれはホンマ出たい!ちなみに、参加者のコメントを見るとガチで凄そう!

Advanced Agile Master Class with Alistair Cockburn

Modern “expert” agile practitioners have mastered the practices – but not why they work, not how to adjust practices to situations, not how to approach new and surprising situations, not how to apply agile practices to non-software projects, not how to incorporate results from other fields back to their own projects, not how to tailor the practices to different organizational cultures. This advanced course from industry guru Dr. Alistair Cockburn addresses those areas.

In this discovery-filled course,

  • Learn why agile works, in software or outside of it,
  • Learn how to articulate and deal with the weaknesses in agile development,
  • Test yourself and your partners with the Test-Driven Carpaccio exercise.
  • Learn to reduce risk and maximize results by viewing design as a Knowledge Acquisition activity.
  • Practice backing up your recommendations with solid theory, not just an appeal to authority,
  • Learn how to plan and track larger, more complicated projects using Story Mapping or Blitz Planning (time permitting),

. . . and most of all

  • Come face-to-face with yourself, your strengths and your weaknesses, as you confront one situation after another with equally inquisitive classmates.

アドバンスドアジャイルマスタークラス

最近の熟達したアジャイル実践者は、「プラクティス」をマスターしているでしょう。しかし、なぜそれがうまくいくかはわかっていないかもしれません。どうプラクティスを特定の状況に当てはめるかはわからないかもしれません。また、新しくて、驚くべき分野にどう適用できるのか、ソフトウェア以外の分野にどう適用するのか、他の分野のプロジェクトに戻った結果との協調や、他の組織文化へのテーラリングなのについてもわからないでしょう。このアドバンスドコースは、この産業のグルであるアリスターコバーンが次の分野について教えてくれます。

次のような発見に出会うかもしれません

  • なぜアジャイルがうまくいくか、ソフトウェアそして、それ以外で
  • アジャイル開発に熟達し、その弱点を扱う方法
  • 自身とパートナーをテスト駆動カルパッチョエクササイズでテストする
  • リスクを減らして、結果を最大化する。知識によってデザインを見ることによって。スキルを高めるアクティビティ
  • 確固たる理論で、あなたの推薦事項をバックアップする練習。単に権威に対してアピールする方法ではなく。
  • 大きくてより、複雑なプロジェクトを計画して、トラッキングする方法。ストーリマッピングと、ブリッツプランニングを使って(時間があるなら)

・・・そして、より重要なこと * あなた自身に向き合うこと。あなたの強さ、弱さ。敵対する一つの状況から、別の状況に対峙する。同じように興味をもっているクラスメートと

次回は11/15 - 17 メルボルンみたいですね。

www.tabar.com.au