メソッド屋のブログ

米マイクロソフト Software Development Engineer 牛尾の日記です。ソフトウェア開発の上手なやり方を追求するのがライフワーク。本ブログは、個人の意見であり、所属会社とは関係がありません。

アメリカのエンジニアと仕事をするときに日本人エンジニアがやったら良さそうなこと

前回のブログの最後で少し触れましたが、今回はアメリカのエンジニアと仕事をしていて感じたコミュニケーションの大きな違いについて書いてみたいと思います。 私はアメリカのシアトルでソフトウェアエンジニアをやっていますが、日本人の人と仕事をするときに求められるコミュニケーションのスタイルと、アメリカのスタイルがものすごく違う点があって、 今も苦労しています。

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そんな中でも自分が気づいて改善中のポイントについてシェアしたいと思います。今回の対象は「アメリカ在住のエンジニア」ではなくて、「アメリカ人の」エンジニアの感覚の違いです。同じ英語圏でも文化が違うので、今回は英語の話ではなく、文化的な違いと思ってください。

日本ではコミュニケーションが得意だったのにまるで通用しない

私は日本にいるときは元コンサルタントですし、プレゼンをするとマイクロソフトでも常に上位でしたし、お客さんをエンゲージするのも非常に得意でした。つまり、日本人として、日本人の中で仕事をする分には多分コミュニケーションスキルは高かったと思います。ところが、アメリカに移住すると、これが死ぬほど通用しません。最初は英語力の問題と思ったのですがそうでありませんでした。わかりやすい。という感覚の違いが大きいように感じます。

日本では「情報量が多い」のが好まれる

日本人のコミュニケーションをするときには、一般的に「情報量が少ない」のは好まれません。例えば多くの人に技術プレゼンをするときに意識していたことの一つに、来てくれたお客さんにみんな満足してもらうためにどうするか?というのをいつも考えていました。だから、初心者の人が来ても、上級者の人が来ても「来てよかったなー」と思えるような構成にしていました。また、「お得感」みたいなものを持っていただくために、プレゼンの最後に、前日徹夜してきてくれた人のためのドキュメントやブログ、サンプルアプリケーションなんかを用意しておいて、その場で公開したりとかもよくしていました。

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プレゼンで評価が高いものをみても、日本のものはスライドの枚数がすくないものってあまりないのではないでしょうか?

アメリカでは「情報量の少ない」のが好まれる

一方、アメリカ人のエンジニアの人には「情報が少ない」のが好まれます。たくさん情報があっても消化できへんやん。という感覚みたいです。それは、プレゼンとかではなくて普段のコミュニケーションでも頻繁に出会います。私はエンジニアなので、技術的な質問とかをする時にどうするか?というと、日本にいるときは、もちろん情報はわかりやすく整理するのですが、相手が知っていてほしいと思う情報は全部盛り込みます。そして、そちらの方が好まれます。おそらく「失敗せず成功させたい」という思いがやるほうも強いので、失敗しないように(そして、めっちゃよろこんでもらえるように)一生懸命がんばっていました。

会話の例

例えばCIのパイプラインがよくわからないエラーで落ちて原因がわからないとします。日本だったら、こんなエラーメッセージがでて、バージョンがどれで、自分が試したのはこれと、これで、結果がこうで、これをやったら落とし穴で、ストールするしてハマるので、しないようにしてね。ちなみに、パイプラインのコードはこのプルリクエストみたいなことを整理して送ってあげるのが喜ばれました。

しかし、アメリカの人はどうやら様子が違うようです。実際に私がメッセを送っても無視されるような感覚を持っていました。そこで、友人のクリスに相談してみたところこんなことを言われました。

クリス:「みんな忙しいだけやで。ただ、そこにたくさん書いてると読むの大変じゃない?だから単純なのでいいの」

牛尾 :「えっ、まじ、、、ちなみに、これやったらはまるでみたいな情報っていらないの?だって、はまったら大変やん」

クリス:「要らんで。さっきの例やと、このエラーメッセージがでて困ってるんやけどなんか知ってる?ぐらいでいいよ。付加的な情報は後でええねん」

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つまり、日本人の自分的には、あったほうがいいと思って、相手にも日本では喜ばれた情報が、こちらの人にはいらん情報みたいです。つまりこんな感じで会話が進む想定です

自分「CIシステムでこんなエラーメッセージがでて困ってるねんけど、なんかしってる?」

相手「ああ、これ前あったことあるわ。このコンフィグは今どうしてる?」

このやり取りでおわったらこれで終了です。

もし終わらなかったら。

相手「そうやなぁ、調査が必要やな。このパラメータどうなってる?」

自分「こうしてるよ。もしよかったら、プルリクエストのURL送るけど」

相手「いいね、見てみるわ」

自分「あ、ちなみに、やるとき、これやったら、バグ踏むから、気を付けてね」

相手「ありがとう!」

といっ感じです。つまり、アメリカの人とコミュニケーションをとるときは、最初から全部説明ぜず、「情報量を減らす」というのがものすごく重要と気づきました。

f:id:simplearchitect:20200417143804p:plain 情報を与え過ぎないのにものすごく気を使います。 何かの技術を説明するときも、日本だったら事前準備したパワーポイントのスライドで技術を説明するケースでも、こっちだと、同じくパワーポイントで説明する場合でも、スライドの枚数を極限に絞って、「これだけ わかって欲しい。」と思う1点だけを説明して、質問が来たら他のを説明したり、というスタイルに変えています。これは良しあしではなく、文化なのですが、どちらが本質的で楽かを考えるとこのアメリカンスタイル は確かに楽だと思います。

その場で吸収できるものを最大化する

背景にある考え方として、日本の場合は得して帰りたい感覚があるので、情報はたくさんもらえるのがうれしいですが、アメリカの場合は、「その場で吸収できることを最大化したい」という感覚があるみたいなので、複雑なものを提供されてもその場で理解できないので、単純でシンプルで、その場で理解できる情報量のものが好まれるようです。

日本人はどうしたらいいだろう?

アメリカ万歳」みたいに聞こえますが、日本人としての仕事の仕方を続けてきた人としては、アメリカの人と働いて有利になる習慣はないでしょうか?おそらくそれは「準備」だと思います。アメリカの人はほぼほぼ「準備」しません。その代り何が来ても対応できるように、普段から反射神経を鍛えている節があります。その姿勢は見習いたいですが、第二外国語の英語である以上戦闘力の低下は否めません。ただ、いくら頭がよくても限界があります。 f:id:simplearchitect:20200417144016p:plain

人生であった最も頭のいい人も理解できるとは限らない

私があるチームに対して技術的な説明をしたのですが、そのメンバーの人は自分が人生で会ったことのある人の中で最も頭のいい人でした。しかも、圧倒的に。人間ってこんな頭よくなるんやぐらいの感覚です。ですので、最初に説明をしたときは、技術的に難易度の高いところから、すべてのパターンやプラクティス、リポジトリアーキテクチャを知っている前提で話ましたが、反応があまりよくありませんでした。自分は正直三流エンジニアで、自分ですら理解できることを説明しているに、ふと、そのときに思ったのですが、「まさか、みんなよくわかってない、、、?」、そこで学んだことは、自分の人生で断トツ圧倒的に一番頭がいいぐらいの人でもなんでも即座に理解できるわけではないということです。自分で書いたある程度複雑なものは、自分は自分でやったからわかってるのであって、他の人がそんなさっさと理解できるものではないのでは?と仮説を立てました。

情報量を最小にする

2回目に説明するときは、手を変えて、「簡単なこと」をしっかり説明するこようにしました。こんなクラスのこと知ってるよな、、、と思っても説明しました。頭が強烈に良くても、知らんものはすぐ理解できないようです。ところが、ここからが猛烈に頭のいい人は違いました。ちゃんと情報量を抑えて、ちゃんと筋道立てて基礎的なことから、説明すると、一瞬で理解して、そして、ものすごく鋭い質問がたくさん来るようになりました。「この人らはやっぱパネェ!」と思いました。たぶんこれはアメリカ人の人のように「アドリブ」で自分がやっていたら英語力的にも無理だったと思います。日本で鍛えた「準備」「改善」が効いた瞬間です。

準備・改善・情報最小化

さらに、改善して、今度は、アーキテクチャを説明するのに、コードや、ダイヤグラムだけでは難しいのがあったので、パワーポイントで動画を作って3分ぐらいにまとめたのをシェアするようにしました。作るのは、パワーポイントでレコーディングして、Youtubeに上げたらできるので、30分ぐらいです。オフィシャルのじゃないので、編集もなしですが、他のメンバも見るべきだよとか、嬉しいコメントがもらえました。 f:id:simplearchitect:20200417144340p:plain

遅延ソリューション

他の日本的な欠点でいくと、「その場での思考の瞬発力」があるように思います。私たちは、持ち帰って考える癖があるので、瞬発で考えるのがあまり得意ではないかもしれません。昔悩んでいた時に、ドリューというボスが言っていたのが、それでいいんだよ。あとでもし、いいアイデアを思い付いたら、その時シェアをしてくれたらいいよ。と言いました。確かに会議がおわったあとに、「こうすればいいんじゃね?」と思いつくこともよくあったのですが、あとでメールしたりすると「いいアイデアだ」と喜ばれることもよくありました。

おわりに

正直言って、頭の回転で彼らに勝てるとは到底思えませんが、どんくさい改善とか、準備とか、工夫とかしていると、くっそ頭のいい人のなかでも役にたてる気がしています。私たちは彼らが持っているものを持っていませんが、別のものをもっているので、うまく活用したほうがよさそうですね。

私はこのトピックに関してはまだまだ研究中です。もし、よいアドバイスなどありましたら、コメントがいただけると嬉しいです。