メソッド屋のブログ

米マイクロソフト Software Development Engineer 牛尾の日記です。ソフトウェア開発の上手なやり方を追求するのがライフワーク。本ブログは、個人の意見であり、所属会社とは関係がありません。

Johanna Rothmanさんの質問力〜アジャイル・チームビルディングカンファレンスに行ってきました〜

先日、アジャイルチームビルディングカンファレンスに行ってきました。


1月16日 アジャイル・チームビルディング・カンファレンス(東京都)


大抵の人の目的?はアジャイルレトロスペクティブのEstherDerbyさんかなぁ、と思ったけど、私は断然Johanna Rothmanさんが目当てでした。というのも、私はManage Itが大好きだからです。


Manage It! 現場開発者のための達人式プロジェクトマネジメント

Manage It! 現場開発者のための達人式プロジェクトマネジメント


PMI系の本はAgileに対しての考察が弱いし、Agile系はPMのことについての考察が弱い。この本は明らかに両方の経験と深い洞察をもった人が書いた、ホンマに素晴らしい本です。珠玉のノウハウが詰まっています。まだ読んでない人は是非!


カンファレンスは、もちろんDerbyさんの手書きスライドによる講演も素晴らしかったし、角さんの、アジャイルインフラストラクチャのDevOpsの話むっちゃよかった。わかりやすいし新鮮やった。流石の一言。平鍋さんの講演も何回も見ているプロジェクトファシリテーションで、同じ台詞をきいているはずなのに、また新しい事に気づけた。LTだと、川口さんのLT、、、LTとしては?だけど、内容はLTではもったいないですわ。是非講演を。


さて、Johanna Rothmanさんの質問力の話ですが、彼女の今回の話はチームビルディングカンファレンスなので、チームビルディングに関してですが、Manage Itと同じく、惜しげも無くビルディングテクを本人自らお話していただけました。


質問の力


私は人に影響を与えたり、自分以外の人の気づきや行動を促進する必殺技が世の中いくつかあるとします。それを一つだけ選ぶとすると、私は「質問力」だと思います。本物の質問力を持った人に会うとわかると思います。私の場合は、私がセラピーを習ったセラピストの先生でした。あれは凄かったなぁ、、、


なぜ、人の行動を促進するのに質問が重要か?というと、凄く単純な話で考えると、「あの人はこうしたらいいのにな〜」ということを相手に伝えたいときに、例えば部屋が散らかってるから部屋を片付けた方がいいよという事を伝えたい場合に、


A:「部屋散らかってるから、片付けた方がええんちゃうか?」
B: ああ、そうやな、やるわ。


というアドバイスを送る方法


A :「今、部屋はどういう状態だと思う?」
B : 散らかっとるね〜
A : 散らかってるのを少しでも軽減するためにできる、小さな一歩ってなんやろ? 自分でできる小さなことでええで!
B : そやなぁ、、、机から片付けるかな。


という質問をする方法があります。アドバイスを送る方法と、質問をする方法がどちらが適切かは、2人の人間関係、ポジションや状況、その時の感情によりますが、人の行動を促進するためには、一般的には質問を用いる方が強力なケースが多くあるようです。


というのも、アドバイスをされたケースだと、一般的には本人は相手の思った事を実行するという立場をとる事になりますが、質問に回答して行くスタイルの場合は、本人の思った事を実行するという立場になるため、「本人がイメージして思った事」として行動する作用があるからです。本人がイメージしたことは、本人の意識にのこりやすいのです。しかも、質問によっては、行動を促進する側の人が思っても無かった素晴らしい解決策を本人が思いつくところもあります。


しかし、この人の行動をファシリテートする「質問力」を鍛えるのは、結構鍛錬が必要です。私も実際に自分で練習して癖になっていたり、使えるようになった質問パターンはいくつかありますが、この質問力を鍛えきった人の引き出し力は半端ないです。ただ、質問すればいいだけじゃなくて、その時の状況や、相手の表情を見たりしないといけませんし、あまり質問ばかりしても尋問みたいになってあまりよくない結果になったりします。


さて、話が長くなりましたが、Johanna Rothmanさんの今回のセミナーは、彼女の長年の経験から得たおそらく彼女が使いこなして効果があった質問を公開してくれています。私にとってはようもまぁ、そんな情報を公開してくださった!とありがたく思います。(それほど、質問は重要です)まぁ、私の英語力は暗黒ですので、間違っているかもしれませんが、あればご指摘ください。



Six Behaviors to Consider for an Agile Team
Six Behaviors to Consider for an Agile Team | Johanna Rothman, Management Consultant


成功している(アジャイル)チームの振る舞いと、その行動を促進するための質問がまとめられています。


成功する(アジャイル)チームの振る舞い

  1. People who can collaborate (メンバが、コラボレーションできること)
  2. People who can ask for help(メンバーが助けを求めることができること)
  3. People who are willing to take small steps and get feedback (メンバーが、小さな一歩を踏み出して、フィードバックえ得ようとすること)
  4. People who are willing to do something that is good enough for now (メンバーが今、必要十分な何かをする意思があること)
  5. Adaptable People(みんなが適応できること)
  6. People willing to work outside their expertise(みんなが、自分の専門以外で仕事をしようとする意思があること)


という感じです。それぞれについて自分なりの解説をしてみたいと思います。嘘があったらあかんので、PPTと英語の分の元ネタをつけておきます。


Collaboration (コラボレーション)


アジャイルじゃないチームは一人で割り当てられた作業をすることが多いですが、アジャイルチームは、密接なコラボレーションをする必要があります。しかし、そういう仕事のスタイルに慣れていないチームの場合、なかなかそういうムードになりません。チームがもっとコラボレーションをしてほしいなぁ、、、とスクラムマスタやプロジェクトマネージャ(、、、等誰でもいいですが)のあなたが思ったときに、どういう質問で行動を促進するかというと、

Think back to a recent project. Give me an example of a time you had to work with other people to make sure that you could finish something. What happened?


最近のプロジェクトを思い出して!あなたが、何かの仕事をやり遂げるために他の人と一緒に仕事をしたときの事を教えてくれない?そのときに、どんなことが起こった?

というような質問をしていくなかで、おそらくチームメンバの人が「あぁ、そういえばこんな事してたよなぁ、、」とか「うまくいくには、もっと話せなあかんのちゃうか?」と自ら気づいてもらうようなきっかけ作りをして、チーム作りを促進していくのでしょう。


Asking for Help(助けを求める)


人に助けを求めることは、以外と難しいことです。それは向こうの人も同じみたいですね。助けを求める権利があったとしても、いや自分で解決せな、、、と思ってしまう事は多いですね。本当にチームで知らないといけないことを一人で全部しっている人など存在しません。だから、そのことを知っている(しってそう)な人に助けを求めることは本当に重要です。そういう助けを求める事が無いと、仕事につまづいて、遅れが発生したりしてしまいます。そんなときにしたらいい珠玉の質問がこれ

Think back to your most recent project. Tell me about a time you did not understand something. What did you do?


最近のプロジェクトを思い出してみて!あなたが知らない事があったときのこと。そんなとき、どうしてた?

こんな感じの質問で、「あ、そーいやー誰かに聞いたよ!」とか、思い出すかもしれません。この文面だけでみると、「あたりまえで、だれでも気づくやん!」と思うのですが、人間はループにはまっているときは、普通の状態だと気づくものも以外と気づかないものです。逆に「助けを求めたらええんちゃう?」とアドバイスしたら「いや、もうちょっとがんばってみるよ」と帰ってくるかもしれません。


Small Steps and Ask for Feedback(小さなステップをふみ、フィードバックを求める)


アジャイルはフィードバックが重要です。実際に動くアプリケーションを見て仕様を決めたり意思決定したり、実際に進捗が進んでいるかを判断したり、、、そういった、何かをやった結果で学びを得る事が重要視されています。また、何かの問題を解決するときには、小さなステップを踏むのが重要です。凄く大きな問題ややる事があったときに、それを一度に解決しようとすると、やる気をなくしてしまいますが、小さなステップに分けてあげると、行動に移りやすくなります。オブジェクト指向の世界でも分割統治といいますね。例えば、体重を10キロ減らすという課題があるときに、いきなり10キロ減らすと思うとげっそりしますが、まず、日曜日だけ間食をやめるとかだと、やる気になるかもしれません。


さて、大きな問題を前にチームがげっそりしていたり、振り返りをてきとーーーーにやってたりしていたケースだとどういう質問をすればいいでしょうか?

Tell me how you like to work. Think back to the last feature to worked on. When you ask for feedback? , Why?

一番最近こなした、フューチャーについて考えてみて!いつ、その事についてフィードバックを得た?、、それは何故?

When you work on your project outside of work, how do you work? Give me an example.

プロジェクトの外で仕事をしたのはいつ?どんなふうに仕事をしたの、具体的に教えてくれない?


おお!これは質問の高等な技です。1つめの質問は、「前提」を使ったテクニックです。自分がやった仕事について、「いつその仕事のフィードバックを得たの?」と質問しています。これは「仕事をしたら、それについてのフィードバックを得ている」ことが前提になっています。「フィードバックを受けたの?」と聞くよりも、そういう風に質問するほうが、「あぁ、そういえばフィードバック受けてないわ!」等と素直に気づきやすくなるという意図でしょう。それは何故と書いてあるのは、「まだやってない!」と解答が来たケースの想定ですね。


次の質問は、おそらくスモールステップや、フィードバックについての気づきを得てもらうための技術で、プロジェクト外の仕事について聞いて掘り下げて行って、スモールステップを踏んだ本人の経験やフィードバックを得た経験に対して質問をして本人に気づきを得てもらうための最初の一歩の質問でしょう。


Do Something Good Enough For Now(今、必要十分なことをすること)


アジャイルでは、Simpleという価値をもっています。どういうことかというと、将来実装するかどうかわからない機能を実装しないということです。つまり、「これは、将来必要になるかも、、、」とおもって余分な機能を実装すると、後で見て訳がわからんかったり、余分な時間がかかったりします。テストとかでも理論的に完璧なテストができませんし、そういったことをよけいな事を予見してごちゃごちゃやりすぎると時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。だから、アジャイルでは「今一番必要な事」だけをやって、変化を受け入れることを重視します。


そういう気づきを得てもらいたい時の質問がこれ

Tell me about a recent time you did not know everything at the beginning of the project. What did you do?

最近あなたが、参加したプロジェクトで、最初に全ての事がわかっていなかったプロジェクトについて教えて。あなたはどういう風にしましたか?

という質問できっと、「あぁ、最初に全部わかってたプロジェクトなんかなかったなぁ、、」といった気づきを得てもらったり、「最初からわかっていないんやから、わかっている必要なことだけやって、後は変更していくしかないよね〜」といった気づきを得てもらうための呼び水の質問になるのかもしれません。


Adaptable (適応すること)


アジャイルのプロジェクトで最初から状況が整えられていることなんてありません。不完全な状況に対応していくことが重要です。こういったときにしたい質問は次の通り

Tell me about a time when you did not have the condition you would've like for your project. What did you do?

あなたのプロジェクトで、あなたのプロジェクトにとって好ましくない状態のときのことを教えてくれない?あなたはそのときどうしたの?

だんだん慣れてきたでしょうから、どういう気づきを得てほしいのか、あなたは気づいているかもしれませんね。


Willing to Work Outside Their Expertise(専門外の仕事をしようとすること)


アジャイルでは、多能工という考えがあります。元々トヨタの考えですが、ある工程の専門の人をつくるより、複数の工程をこなせる人の方がリソースの配分もしやすくなります。アジャイルでも、例えば「俺はGUIのプログラミング専門」とか言う人がいます(日本にはあまりいませんが、、)しかし自分の責任範囲が終わったら「あとし〜らない」ということは良く見かけます。彼女曰く「チームで働く人は、そんなに自分の専門範囲からはなれていない範囲で、専門外の仕事をする意思を持ってほしい」とのことです。私もそう思います。

さて、そういう気づきを得てもらう時の質問

Tell me about a time you took on work to help the team. What was that like?

チームを助けるための仕事をした時のことを教えてくれない?それはどんな感じだった?


もし、この質問に答えるのが難しいようすだったら、次の質問をします。


We work on things we may not be comfortable with in order to finish a feature for an iteration. Have you ever been in that position?

私たちは、自分たちの(専門)能力だけでは出来ない仕事を持っているの。そういう状況に陥った経験ってある?

Tell me about a time you did something you thought was not in your job description. What did you do?

あなたの専門外の仕事をやらないといけなかったときのとを教えて。あなたはそのときどうしたの?


これも強力な質問ですね。これも「専門外の仕事をした事がある」前提を使って、顕在意識の壁を越えようとしています。「専門外の仕事をした事がありますか?」と聞くとおそらく「いいえ」と帰ってくるでしょう。しかし、よくよく考えると、新人の頃は誰でもやってるはずですし、新しい専門性を身につける時も経験しているはずですね。だからそういう意識の垣根を前提をおくことにより乗り越えようとしています。


質問力はホンマに強力ですが、それを上手く使うのは訓練と、実践が本当に重要な難しいスキルです。私もももう一回鍛え直そうというきになってきました。



凄くいい講演だったので、自分の意識を整理するためにも振り返ってみました。こんな素晴らしいカンファレンスを本当にありがとうございました